見えない困難と向き合うために
「働きたくないだけじゃないの?」
「言い訳ばかりで甘えてる」
「間違いを繰り返す」
「何回言われても、覚えられない」
そんな人たちがいます。
でも、本人は「やる気はあるのにできない」「毎日がしんどい」と感じている――。
それは本当に「甘え」なのでしょうか?
それとも、もっと別の“見えにくい困難”があるのでしょうか?
ここでは、「働けない」「社会生活がうまくいかない」原因の中にあるかもしれない、発達障害や高次脳機能障害など、“見えにくい脳の特性”について考えていきます。
■「なぜか働けない人」がいる社会
見た目にはわからないけれど、「働けない」人がいます。
仕事が続かない、人間関係がうまくいかない、スケジュールが管理できない…。
それは単なる“怠け”ではなく、脳の機能に由来する困難かもしれません。
以下のような特徴に、心当たりはありませんか?
- 指示が一度で理解できない
- 同じミスを何度も繰り返す
- 忘れ物や約束のすっぽかしが多い
- 感情のコントロールが難しい
- 他人との距離感がうまくつかめない
- 嘘をついてしまうが、悪意があるわけではない
これらは、発達障害・高次脳機能障害などの一部の症状として現れることがあります。
■ 嘘をつくのは「ズルい」のか、「脳の働き」なのか?
「嘘をつく=ズルい、ずる賢い」と思われがちです。
でも実際には、脳機能障害のある人は“嘘をついている”という自覚がないまま場当たり的に話を作ってしまうことがあります。
これは以下のような理由によります:
- 記憶の整理がうまくいかず、事実と想像の境界が曖昧
- 「今この場をしのぐこと」が最優先で、長期的な整合性を考えられない
- 自分の感情をうまく言語化できず、適当に合わせてしまう
- 自分を守るための“癖”として嘘をつくことを学んでしまった
つまり、嘘をつく動機や頻度、パターンを観察することで、「ズルさ」なのか「脳の不器用さ」なのかが見えてくることもあるのです。
■ 情報社会で“表面化”した課題
昔からこうした「見えにくい障害」はあったと考えられます。
でも現代社会では、それが“より目立つ問題”として表面化しています。
たとえば、現代の職場では…
- スケジュール管理 → Googleカレンダーなどで“自己管理”が前提
- シフトの連絡 → LINEやアプリなどで正確な返信が必要
- マニュアル → 長文を読み取り、理解して即実行
- タスク管理 → チェックリストや報告の徹底
- コミュニケーション → チャットでの丁寧なやり取りが必要
これらすべてが、「認知機能」「処理速度」「言語理解」など、脳のバランスが求められる作業です。
そのため、特性に偏りのある人はどうしても“能力不足”に見えてしまいやすいのです。
■ どうやって見極める?〜必要な検査と受け方〜
| 検査の種類 | 内容・目的 | どこで受けられるか |
| WAIS-IV(ウェイス・フォー)知能検査 | 言語理解・ワーキングメモリなど知的能力の凸凹を数値化。発達障害の有無も把握しやすい。 | 医療機関、発達支援センター |
| ADHD・ASD検査 (WURS/CAARS/AQなど) | 自分では気づけない特性の偏りを質問紙で可視化。 | 心療内科、精神科、心理相談機関 |
| MRI・SPECT(脳画像検査) | 高次脳機能障害や脳の特定部位の異常を確認。事故後・薬物歴・急な性格変化がある人に有効。 | 大病院の神経内科、精神科 |
| 心理検査 (ロールシャッハ、バウムテストなど) | 性格傾向や感情処理の癖を分析し、行動背景の理解につながる。 | 臨床心理士在籍の機関、大学附属機関など |
💡 補足: 複数の検査を組み合わせて、医師や心理士が総合的に判断するのが一般的です。
■ 🏥 じゃあ、どこで相談・検査を受けられるの?
| 機関 | 特徴・ポイント |
| 精神科・心療内科 | 「社会生活に支障がある」「特性が気になる」と伝える。発達障害外来・神経心理外来がある病院が望ましい。紹介状が必要な場合も。 |
| 発達障害者支援センター/福祉センター | 無料のアセスメントや相談が受けられる。成人対応をしている自治体も増えている。 |
| 心理相談機関(臨床心理士・公認心理師が在籍) | 民間カウンセリングや大学の付属機関。5,000~10,000円程度で検査可能なところも。 |
■ こんな人は一度、検査を検討してみて
- やる気はあるのに、ミスや忘れが繰り返される
- 物事の優先順位がつけられず、日常生活に支障がある
- 「ズルい」「嘘つき」と言われるが、本人には悪意の自覚がない
- 人間関係で常に摩擦が起こる
- いくつもの職場を転々としたが、理由が曖昧なまま
「甘え」に見える行動の奥に、見過ごされてきた“困難”があるかもしれません。
正しい知識と支援の手があれば、人生はもっと生きやすくなる。
そんな視点から、次章では“依存と軽度知的障害のグレーゾーン”を深掘りしていきます。


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