第3章 回復を助ける支援とは何か―「甘やかし」と「放置」のあいだで

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第1章・第2章で見てきたように、
「やる気がない」「怠けているように見える」人の中には、
脳の実行機能や認知の偏りによって、やろうと思っても動けない状態に陥っている人がいます。

そして同時に、
その困難を見誤った支援が、かえって依存や無気力を強めてしまうケースも少なくありません。

では、
本当に回復や自立につながる支援とは、どのようなものなのでしょうか。


起きられないのは「意思が弱い」からではない

「朝起きられない」
「外に出る準備ができない」

これらは、単に怠けているように見えがちです。
しかし実際には、こんな状態が起きていることがあります。

  • 起きたあとに何をすればいいのか、頭の中で順序立てて想像できない
  • これまでの失敗体験が一気に思い出され、
     「どうせまたできない」という感覚に押しつぶされる
  • その結果、布団から出る前に気力が削がれてしまう

本人の中では、
「起きなければ」「動かなければ」という思いはあるのに、
最初の一歩にたどり着けないのです。


環境を「考えなくていい形」にする

回復や自立を助けるために、最も効果的なのは
本人の意志を鍛えることではなく、環境を整えることです。

① 1日の流れを固定する

起床 → 朝食 → その日の確認 → 外出(または作業)

このように、毎日の行動の順番をできるだけ固定します。
選択肢を減らし、「考えなくても体が動く」状態をつくることが目的です。

作家・鈴木大介さんは、
高次脳機能障害を負った自身の回復過程について、
妻がこの「流れを固定する支援」を徹底していたと記しています。

  • 起きたらこれ
  • 食べたらこれ
  • 次はこれ

一見すると細かすぎるように見えますが、
これは管理ではなく、脳の混乱を減らすための補助でした。

② タスクは「1つずつ」見える化する

「全部やる」ではなく、
**「今日はこれだけ」**をはっきりさせます。

  • 紙に1行だけ書く
  • ホワイトボードに貼る
  • ToDoアプリに1つだけ登録する

ポイントは、同時に複数見せないことです。

「自分で考えて全部やりなさい」という言葉は、
実行機能が弱い人にとっては、実質的な放置になってしまうことがあります。


結果より「プロセス」を見る

支援する側が最もつらくなるのは、
「結局できていない」「また途中でやめた」と感じる瞬間かもしれません。

けれど、回復や自立において重要なのは、結果だけを見ることではありません

  • 布団から出ようとした
  • 机に向かおうとした
  • 外出準備の一部だけでも手をつけた

それらはすべて、
「動こうとしたプロセス」です。

この積み重ねがなければ、行動は定着しません。


支援してくれる人がいない場合はどうすればいいか

現実には、
家族やパートナーなど、根気強く支援してくれる人がいない場合も多くあります。

その場合は、

  • 発達障害者支援センター
  • 福祉窓口
  • 就労支援事業所
  • 心理職による伴走型支援

など、個人で抱え込まなくていい仕組みを使うことが重要です。

支援を受けることは甘えではありません。
支援を適切に使えること自体が、自己管理能力の一部です。


「一緒に転ばない支援」という考え方

支援とは、
代わりに生きることでも、すべてを背負うことでもありません。

手を出しすぎれば依存を生み、
突き放せば孤立を深める。

大切なのは、
本人が立ち上がるための一時的な足場になることです。

壊れた橋に板を渡すように、
向こう岸へ渡るための補助をする。
歩くのは、あくまで本人です。


結びに

「できないこと」を責められ続けた人は、
やがて「できない自分」を信じ込むようになります。

でも、
その原因が性格ではなく、脳の働きや環境にあったとしたら、
人生はそこから立て直せます。

支援とは、甘やかしでも放置でもなく、
自立につながる距離を見極めること

この視点が、
誰かを追い詰めるためではなく、
誰かが自分を理解するための材料になることを願っています。


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