第1章・第2章で見てきたように、
「やる気がない」「怠けているように見える」人の中には、
脳の実行機能や認知の偏りによって、やろうと思っても動けない状態に陥っている人がいます。
そして同時に、
その困難を見誤った支援が、かえって依存や無気力を強めてしまうケースも少なくありません。
では、
本当に回復や自立につながる支援とは、どのようなものなのでしょうか。
起きられないのは「意思が弱い」からではない
「朝起きられない」
「外に出る準備ができない」
これらは、単に怠けているように見えがちです。
しかし実際には、こんな状態が起きていることがあります。
- 起きたあとに何をすればいいのか、頭の中で順序立てて想像できない
- これまでの失敗体験が一気に思い出され、
「どうせまたできない」という感覚に押しつぶされる - その結果、布団から出る前に気力が削がれてしまう
本人の中では、
「起きなければ」「動かなければ」という思いはあるのに、
最初の一歩にたどり着けないのです。
環境を「考えなくていい形」にする
回復や自立を助けるために、最も効果的なのは
本人の意志を鍛えることではなく、環境を整えることです。
① 1日の流れを固定する
起床 → 朝食 → その日の確認 → 外出(または作業)
このように、毎日の行動の順番をできるだけ固定します。
選択肢を減らし、「考えなくても体が動く」状態をつくることが目的です。
作家・鈴木大介さんは、
高次脳機能障害を負った自身の回復過程について、
妻がこの「流れを固定する支援」を徹底していたと記しています。
- 起きたらこれ
- 食べたらこれ
- 次はこれ
一見すると細かすぎるように見えますが、
これは管理ではなく、脳の混乱を減らすための補助でした。
② タスクは「1つずつ」見える化する
「全部やる」ではなく、
**「今日はこれだけ」**をはっきりさせます。
- 紙に1行だけ書く
- ホワイトボードに貼る
- ToDoアプリに1つだけ登録する
ポイントは、同時に複数見せないことです。
「自分で考えて全部やりなさい」という言葉は、
実行機能が弱い人にとっては、実質的な放置になってしまうことがあります。
結果より「プロセス」を見る
支援する側が最もつらくなるのは、
「結局できていない」「また途中でやめた」と感じる瞬間かもしれません。
けれど、回復や自立において重要なのは、結果だけを見ることではありません。
- 布団から出ようとした
- 机に向かおうとした
- 外出準備の一部だけでも手をつけた
それらはすべて、
「動こうとしたプロセス」です。
この積み重ねがなければ、行動は定着しません。
支援してくれる人がいない場合はどうすればいいか
現実には、
家族やパートナーなど、根気強く支援してくれる人がいない場合も多くあります。
その場合は、
- 発達障害者支援センター
- 福祉窓口
- 就労支援事業所
- 心理職による伴走型支援
など、個人で抱え込まなくていい仕組みを使うことが重要です。
支援を受けることは甘えではありません。
支援を適切に使えること自体が、自己管理能力の一部です。
「一緒に転ばない支援」という考え方
支援とは、
代わりに生きることでも、すべてを背負うことでもありません。
手を出しすぎれば依存を生み、
突き放せば孤立を深める。
大切なのは、
本人が立ち上がるための一時的な足場になることです。
壊れた橋に板を渡すように、
向こう岸へ渡るための補助をする。
歩くのは、あくまで本人です。
結びに
「できないこと」を責められ続けた人は、
やがて「できない自分」を信じ込むようになります。
でも、
その原因が性格ではなく、脳の働きや環境にあったとしたら、
人生はそこから立て直せます。
支援とは、甘やかしでも放置でもなく、
自立につながる距離を見極めること。
この視点が、
誰かを追い詰めるためではなく、
誰かが自分を理解するための材料になることを願っています。

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