【摂食障害から目を逸らしたままでは、健康にはなれなかった。】
胃が壊れているのに、私は「健康」を探し続けていた。
摂食障害になってから、◯十年が経つ。
年齢を重ねるにつれて、体は確実に変わった。腰は痛いし肩も凝る。
毎日の過食嘔吐と加齢で胃は一番、弱っている。
それでも私は、根本である摂食障害に向き合わず、
「これなら体調が良くなるかもしれない」という健康法を、ずっと探し続けていた。
健康法にすがり続けた理由
最近、YouTubeで
「あなたは過敏性腸症候群かもしれない」という内容の動画を見た。
当てはまることが多い!
腸内環境、腸活に役立つアイテム、発酵食品、サプリメント多数。
YouTubeで紹介される商品に、私はまた希望を見てしまった。
冷静に考えれば当たり前なのに、
過食嘔吐を続けていれば、腸内バランスが崩れるのは当然だ。
それでも私は、
「摂食障害の結果」ではなく
「新しい病名」を見つけることで、
根本から目を逸らそうとしていた。
サプリと発酵ヨーグルトにすがった朝
YouTuberの言う通り、
私はiHerbで10種類以上のサプリメントを取り寄せた。
高容量のビタミンD。
ナイアシン。
亜鉛。
腸に良いとされる菌や、代謝を上げる成分。
今思えば、名前を覚えきれないほどのサプリの量だった。
腸を立て直したい一心で、
長時間発酵ヨーグルトも手作りした。
朝、
塩分の強い電解質パウダーを溶かした水を飲み、
発酵ヨーグルトを食べ、
ビタミンDやナイアシンを中心に、
いくつものサプリをまとめて飲んだ。
胃が弱っている自覚はあった。
それでも私は、
「効かせたい」という気持ちを優先した。
体が出した最初の異変
昼頃から、
お腹の奥で腸が鳴り始めた。
キュルキュルという音ではない。
内側から泡立つような、
止めようのないゴロゴロという音。
ガスが溜まり、
お腹が張り、
座っていても落ち着かない。
それでも私は、
「好転反応かもしれない」
そう思おうとした。
「帰ったら吐く」スイッチ
夕方、外出の予定が入った。
仕事仲間と、軽く何かを食べなくてはならない状況だった。
その瞬間、
頭の奥で、
「帰ったら吐く」
――いつものスイッチが入る。
意識して決めたわけではない。
考えるより先に、体がそう判断していた。
仕事仲間と別れたあと、
私は迷いなくコンビニに立ち寄り、
菓子パン、プリン、ジュースなどを手に取った。
吐くための食べ物を選ぶ、その感覚。
それはもう、
何年も繰り返してきた動作で、
考えなくても体が覚えているものだった。
帰宅後、コンビニで買った物を気分が滅入らないように
お気に入りの動画を見ながらむさぼり喰う。
そして胃をグーで押さえ体をくの字にして嘔吐。
トイレに流れていく様子を見てやっと今日が終わる。
腸は相変わらずゴロゴロしていたが、
吐いたことで一時的な安心感が広がり、
眠りについた。
夜中に襲ってきた、制御不能の吐き気
数時間後、
強烈な吐き気で目が覚めた。
これは、自分で誘発するいつもの吐き気ではない。コントロールできない吐き気だ。
胃が内側からひっくり返されるようで、
喉の奥まで、何度も波がせり上がってくる。胃酸で胸が熱い。
呼吸は浅くなり、
心臓が早鐘のように打ち始めた。
「これはおかしい」
「本当にまずい」
吐こうとしても吐けない。
ただ、
吐き気だけが何度も何度も押し寄せる。
私は布団の中で体を丸めながら、
救急車を呼ぶかどうか、本気で悩んだ。
思い出してしまった、過去の救急外来
その時、
摂食障害初期、若い頃の記憶がよみがえった。
うまく吐けず、
食べ物を詰め込みすぎて胃が裂けそうな苦しみに耐えきれず、
深夜の救急外来に駆け込んだ夜。
医師に言われた言葉。
「食べ過ぎ?
何バカなことしてるの。勘弁してよ」
そのゴミを見るような視線の冷たさを、
私は今でも忘れられない。
その記憶が、
私を病院から遠ざけた。
私は以前、内科で処方してもらった吐き止めの薬、
ドンペリドン錠を飲み、
ただ朝が来るのを待った。
朝になって、ようやく気づいたこと
朝、
薬が効いたのか、自己治癒力なのか、
吐き気は少し落ち着いていた。
「YouTubeの通りにしたのに、なぜ?」
原因を考えて
私はようやく、
自分が何をしていたのかを理解した。
壊れた車に、どんなにいいエンジンを積んでも
今なら、
あの時の自分に、こう言える。
壊れた車に、
どんなに性能のいいエンジンを積んでも、
そもそも車体がボロボロなら、まともには走らない。
私がやっていたのは、
まさにそれだった。
過食嘔吐で胃が壊滅的に弱っている状態で、
高容量のサプリ、発酵食品という
「高性能エンジン」ばかりを積み込んでいた。
でも、
壊れていたのは
土台そのものだった。
考え方は間違っていなかった。ただ、順番が違った
今思えば、
私の考えは間違っていなかった。
健康になりたい。
体を立て直したい。
腸を整えたい。
その方向は、
決して間違っていない。
ただ、
やる順番を、完全に間違えていた。
摂食障害で体を壊し続けている状態のまま、
「健康法」だけを足しても、
体が悲鳴をあげるのは当然だった。
健康法の前に、向き合うべきもの
摂食障害に向き合わないままでは、
どんな健康法も、
試すスタートラインにすら立てない。
それが、
救急車を呼ぶ一歩手前まで苦しんで、
ようやくわかった現実だった。
AIは、
正しい情報をたくさん教えてくれる。
でも、
「壊れた体で試した結果どうなるか」は、
実体験でしか語れない。
だから私は、
この体験を忘れないために、
ここに書き残しておく。
もし今、
「まず健康になろう」として
摂食障害から目を逸らしている人がいたら。
伝えたい。
摂食障害を治すことから始めない限り、
どんな健康法も、本当の意味では使えない。


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