「この人なら、大丈夫かもしれない」
――そう思ったのは、私の心がまだ、誰かに支えられたいと願っていたからだ。
一度目の離婚のあと、私は懸命に働き、子育てに全力を注いでいた。
余裕なんてなかったけれど、息子と過ごす静かな日々は、小さな幸せで満ちていた。
そんな中で出会った年下の彼。
優しい言葉をかけてくれて、私の過去も、息子の存在も受け入れてくれたように“見えた”。
「一緒に頑張ろう」
そのたった一言が、乾ききっていた私の心にしみわたった。
私は、救われた気がした。いや、救われた“つもり”だった。
そして、再婚――してしまった。
彼との間に子どもを授かったとき、私は新しい未来を信じた。
「今度こそ、家族になれるかもしれない」
そう思った。でも、それは幻想だった。
赤ちゃんが生まれてからの彼の態度は、あまりに残酷だった。
実の子には笑顔を向け、長男には冷たい視線を投げつける。
無視、威圧、時には怒鳴り声が家中に響いた。
あの穏やかな“優しさ”は、すべて仮面だったのだ。
「ねぇ、どうしてパパは僕のこと嫌いなの?」
ある日、長男がぽつりと聞いてきた。
胸が張り裂けそうだった。私の再婚を受け入れようと、小さな心で精一杯がんばっていたのに…。
そして、あの日。
彼が長男を激しく怒鳴りつけ、手をあげた。
私は、その瞬間に声を荒げて叫んだ。
「離婚して!子どもに手をあげる人とは、一緒にいられない!」
私の覚悟を前に、彼は一瞬驚いたような顔をした。
でも、私の目を見て本気だと分かったのだろう。
静かに、離婚届にサインをした。
私はもう、誰かに守られることを期待しない。
私が、私の子どもを守る。それが、母親としての誓い。
「愛」とか「再婚」とか――
甘い幻想はもう要らない。
私は、現実を生きる。
そして、母として立ち続ける。
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