自分の人生に、希望なんてなかった。
「どうでもいい」「早く終わればいい」
それが、当たり前になっていた。
そんな私に、ある日突然――
“命”がやってきた。
妊娠がわかった瞬間、胸の奥に湧き上がったのは、喜びでも感動でもなく「恐怖」だった。
こんな私が母親に?
この家で、この子を育てるの?
いや…育てていいの?
心は混乱の嵐だった。
でも、お腹の中の小さな命は、
そんな私の迷いなど関係なく、確かに、日々成長していた。
その姿が、静かに、けれど確実に――
私を「母」に変えていった。
⸻
かつて、自分の体を傷つけてばかりだった私が、
はじめて「大切にしたい」と思った。
「守らなきゃ」と、心から願った。
過食嘔吐は、気づけば止まっていた。
妊娠によってお腹がふくらみ、太ることへの罪悪感も薄れた。
けれど、それ以上に――
吐くときにお腹を強く押すと、
そのたびに小さな命の「苦しいよ」という声が聞こえる気がした。
私はこの子を、傷つけたくなかった。
かつては「無になる」ために食べ、吐いていた。
でも今は――「生きるため」に食べていた。
「この子のために元気でいたい」と願うようになっていた。
⸻
私は、もう1人じゃない。
私の中に、新しい命がいる。
そのことが、
ずっと自分に厳しすぎた私を、少しだけ許す力になった。
自分のためには生きられなかった私が、
この子のためになら、ちゃんと生きようと思えた。
母になるって、こんなにも人を変える力があるのかと驚いた。
同時に、強く思った。
このままじゃいけない。
親の支配の中でこの子を育てれば、
きっとまた、同じ人生を繰り返してしまう。
私が味わった「女は我慢」「親の言う通りにしていればいい」という呪いを、
この子には絶対に引き継がせたくない。
なにより、
自分のことを情けない母親だと、
この子に思われたくなかった。
⸻
私は決めた。
ここから変わる。
母として、人として、生き直す。
知識もスキルもなかった私は、まず「資格を取ろう」と思った。
宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー――
出産の前後、空いた時間をすべて勉強にあてた。
一歩でも、自分の足で立てるように。
それは、
「自立するため」の、小さな準備だった。
遅すぎる自立でもいい。
でも今ならまだ間に合う。
私はもう、サーカスのゾウじゃない。
足に巻かれた縄を、
自分の手で外すときが来たのだ。
この子を連れて、あの家を出よう。
それが、私と命の物語の、第一歩になる――そう信じて。
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