第5話:一番穏やかな時間

摂食障害連載小説

2度目の離婚を終え、私は再び母子3人の生活に戻った。

兄弟で遊んでいる様子に癒されつつも、日々の暮らしは決して楽ではなかった。
お金の不安、一家を支える責任、そして仕事と子育ての両立。
体力も、気力も、いつもギリギリのラインで踏ん張っていた。

それでも、家の中に流れる空気は、静かで優しかった。
次男がクローゼットの陰に隠れて、長男を驚かそうとする。
バレているのに、長男はちゃんと驚いたフリをする。


そんな小さなやりとりが、私の心をじんわり温めてくれた。

長男は、キャッチボールや肩ぐるま、お風呂も率先してしてくれた。
まるで小さな父親のように次男に接する姿に、何度も胸が詰まった。
「本当なら、もっと甘えていられる年頃なのに…」
私は、離婚によって彼の“子ども時間”を奪ってしまったのかもしれない。
その思いが、ふとした瞬間に涙を誘った。

それでも、「子どものために頑張る」――その気持ちだけで、なんとか毎日を乗り越えていた。

だけど、働きながらの子育ては、常に時間に追われる。
「行かないで」と泣く声を背に、保育園へ走った朝。
出がけに握った小さな手の温もりが、帰り道まで残っていた。

私は思った。

「もっと、子どもと過ごせる働き方をしたい」

その願いは、私の中で少しずつ形になっていく。

子どもたちのために工夫したキャラ弁、パンやおやつ。
節約、健康、のために始めたのだが、「美味しい!」という笑顔がうれしくて、夜中まで台所に立っても、疲れは不思議と感じなかった。

「安心できる食材で、誰かの心を満たしたい」
それが、私の中に芽生えた新しい夢だった。

そして私は、決意する。

自分で仕事をつくろう。
あたたかいごはんと笑顔を届ける、小さなカフェを開こう。

それは、母として、ひとりの人間として、
“生き方”そのものを変えていく一歩だった。

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