ある日、ひとりの女性から相談が届きました。
三十代。 過食嘔吐がもう十年以上続いている。
「痩せたいわけじゃないんです」 彼女はそう言いました。
「ただ、もう習慣になってしまって。 食べたら吐く。 それが日常の一部になってる」
おにぎり一個でお腹がいっぱいになる。 なのに三十分後にはもう空腹。
胃が小さくなったのか、 心が壊れているのか、 自分でもわからない。
そんな彼女に、 私はカウンセラーとして、 そして同じように人生を遠回りしてきた人間として、 これから書くことを伝えました。
長年の摂食障害と向き合っている方、 そのご家族の方に届けば嬉しいです。
なぜ「おにぎり一個で満腹、三十分で空腹」になるのか
まず最初に、 知っておいてほしいことがあります。
「食べていない」のではなくて 「血糖値が乱高下している」だけ。
長年の過食嘔吐で、 あなたの満腹中枢も 空腹中枢も、 信号として壊れてしまっています。
胃の容量も小さくなっている。 だから少量で「もう無理」と感じる。
でも血糖値はジェットコースターのように 上がっては落ちるので、 すぐにまた「お腹が空いた」と感じる。
これは意志の弱さではありません。 体の生理的な反応です。
聞こえる声がぜんぶ嘘になっている、 そういう状態。
責めなくていいんです。
第一歩は「食べる」じゃなく「補給する」
固形物への抵抗が強い時期は、 噛まずに胃に入るものから始めると 恐怖が下がります。
最初におすすめしたいのは、 こんな「液体・半固体のたんぱく質」です。
- 無調整豆乳(コップ一杯・180ml)
- 無糖ヨーグルト(小さめ一個)
- 具なしの味噌汁+豆腐少し
- ゆで卵一個
「食事」と思うとしんどいから、 「点滴」だと思って入れる。
罪悪感が起きにくいルートから、 体に少しずつ栄養を戻してあげる。
これが、十年戦ってきた人にとっての 本当の「第一歩」です。
固形のごはんやパンから始めようとすると、 それだけで何ヶ月も立ち止まってしまう。
だから先に、 「液体ならいける」自分を作る。
吐かないための、四つの小さな工夫
長年の過食嘔吐がある方が 「吐かずに食べ終える」ために、 物理的に有効なコツが四つあります。
1. 量より、頻度
一日三食じゃなくていいんです。
三時間に一回、一口ずつ。
胃に何かが入っている時間を 少しずつ伸ばしていく。
「ドカ食い→吐く」のループは、 胃が空っぽの時間が長すぎるから起きる。
少しずつ間隔を埋めていくと、 そもそも「ドカ食いしたくなる衝動」が 弱まっていきます。
2. 食後三十分は座ったまま
横にならない。 動かない。 体重計に乗らない。
吐き戻しのスイッチを 押さないでいられる三十分間です。
体重計は特に注意。 食後すぐに数字を見ると、 それが嘔吐の引き金になりやすい。
「三十分は数字を見ない」 このルールだけでも、 吐く回数は確実に減ります。
3. 温かいものから始める
冷たいものは胃を刺激しやすく、 嘔吐反射を呼びやすくなります。
お味噌汁、スープ、白湯。
体が「あったかい」と感じると、 不思議と心も少しゆるむ。
冬場はもちろん、 夏でも最初の一口は温かいものから。
これは消化器内科の医師も よく勧める方法です。
4. 食事中は手元を埋める
スマホでも、本でも、ラジオでも、 何でもいいです。
「食べている自分」を 観察しすぎないために、 意識を分散させる。
過食嘔吐の方は 食事中に「自分を監視する目」が 強く働きすぎる傾向があります。
監視を外すと、 食事はもう少し普通の行為に戻ります。
「食べていいもの/NG食品」という思考について
ここからが、実はいちばん大事な話です。
長年の摂食障害がある人の頭の中には、 たいてい細かいリストがあります。
これはOK。 これはNG。 これは○○グラムまで。
このリストを作っているのは、 あなた自身ではありません。
長年つきあってきた、 病気のほう。
質問者さんが書いてくれたように、 **「この思考自体が病気」**なんです。
ここに気づいていることが、 実はものすごく大きな一歩。
回復は「リストを消す」ことではない
よく誤解されるのですが、 回復のゴールは 「NGリストを消して何でも食べられるようになる」 ことではありません。
そうじゃなくて、 グレーゾーンを少しずつ増やしていくこと。
たとえば、 「白米はNG、玄米はOK」の人なら、 雑穀ご飯から試してみる。
「お菓子は全部NG」の人なら、 ナッツ → ドライフルーツ → ビターチョコ → 普通のチョコ そんな順番で 階段をかけてあげる。
一気に飛び越えなくていい。
「OKでもNGでもないもの」が ひとつ増えるだけで、 世界の解像度が変わっていきます。
数字から離れる時間を作る
回復期には、 一時的にこういうものから距離を置くのも有効です。
- カロリー表示が大きく書かれた食品
- 「カロリーオフ」「糖質ゼロ」と書かれた商品
- 「ダイエット」を謳った食品全般
- こんにゃくゼリーのような、ほぼゼロカロリーの食品
これらは 「数字で食べる」思考を 強化してしまうから。
数字から離れる時間を、 体と心に教えてあげる。
スーパーでパッケージの裏を見ない、 コンビニの新商品の数字を読まない、 そういう小さな積み重ねが、 じわじわ効いてきます。
摂食障害は「食べ物の問題」ではない
最後に、いちばん大切なことを書きます。
過食嘔吐は、 食べ物の問題ではありません。
「食べる自分を許せない」という 心のクセが、 食卓に出てきているだけ。
何かをコントロールしないと 自分を保てない、 そういう生き方の癖が、 たまたま「食」という形を取っているだけ。
だからね、 食事を整えるのと同時に、 **「今日も生きてていい」**って 自分に言ってあげてほしいんです。
吐いてしまった日も、 食べられなかった日も、 あなたの価値は びくともしません。
専門家との並走を、どうかためらわないで
この記事に書いたことは、 あくまで日常生活の中の小さな工夫です。
長年の摂食障害は、 ひとりで抱えるには重すぎる病気。
医師、 管理栄養士、 心理職。
この三つと並走することで、 回復率は大きく変わることが 研究でわかっています。
「もう何年も同じことの繰り返しだから」 「今さら相談しても」
そう思う気持ちもわかります。 でも、十年つきあってきたものを ひとりでほどこうとすると、 さらに十年かかる。
専門家は「裁く人」ではなくて、 ほどく作業を一緒にしてくれる人。
近くに信頼できる窓口がなければ、 日本摂食障害協会のホットラインや、 お住まいの自治体の精神保健福祉センターに 電話してみてください。
匿名で大丈夫です。
おわりに
十年戦ってきた人に、 私が言えるのは これくらいです。
でも、これだけは伝えたい。
回復は、 「治る」じゃなくて 「抱えながら、軽くなる」。
そういう道のりです。
焦らないで。
今日、豆乳を一杯飲めたなら、 それは奇跡みたいな一歩。
明日も、 ひとくちだけでいいから、 体にやさしい何かを 入れてあげてくださいね。
このブログが、 誰かの「明日の朝」に届きますように。
関連記事として、私自身の摂食障害回復のワークを詰め込んだKindle『摂食障害回復マニュアル ワーク付き』もあります。 日々の自分と向き合うひとつの道具として、よかったら覗いてみてくださいね。

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