🌸第2話:命が、私を変えた

摂食障害連載小説

自分の人生に、希望なんてなかった。

「どうでもいい」「早く終わればいい」

それが、当たり前になっていた。

そんな私に、ある日突然――

“命”がやってきた。

妊娠がわかった瞬間、胸の奥に湧き上がったのは、喜びでも感動でもなく「恐怖」だった。

こんな私が母親に?

この家で、この子を育てるの?

いや…育てていいの?

心は混乱の嵐だった。

でも、お腹の中の小さな命は、

そんな私の迷いなど関係なく、確かに、日々成長していた。

その姿が、静かに、けれど確実に――

私を「母」に変えていった。

かつて、自分の体を傷つけてばかりだった私が、

はじめて「大切にしたい」と思った。

「守らなきゃ」と、心から願った。

過食嘔吐は、気づけば止まっていた。

妊娠によってお腹がふくらみ、太ることへの罪悪感も薄れた。

けれど、それ以上に――

吐くときにお腹を強く押すと、

そのたびに小さな命の「苦しいよ」という声が聞こえる気がした。

私はこの子を、傷つけたくなかった。

かつては「無になる」ために食べ、吐いていた。

でも今は――「生きるため」に食べていた。

「この子のために元気でいたい」と願うようになっていた。

私は、もう1人じゃない。

私の中に、新しい命がいる。

そのことが、

ずっと自分に厳しすぎた私を、少しだけ許す力になった。

自分のためには生きられなかった私が、

この子のためになら、ちゃんと生きようと思えた。

母になるって、こんなにも人を変える力があるのかと驚いた。

同時に、強く思った。

このままじゃいけない。

親の支配の中でこの子を育てれば、

きっとまた、同じ人生を繰り返してしまう。

私が味わった「女は我慢」「親の言う通りにしていればいい」という呪いを、

この子には絶対に引き継がせたくない。

なにより、

自分のことを情けない母親だと、

この子に思われたくなかった。

私は決めた。

ここから変わる。

母として、人として、生き直す。

知識もスキルもなかった私は、まず「資格を取ろう」と思った。

宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー――

出産の前後、空いた時間をすべて勉強にあてた。

一歩でも、自分の足で立てるように。

それは、

「自立するため」の、小さな準備だった。

遅すぎる自立でもいい。

でも今ならまだ間に合う。

私はもう、サーカスのゾウじゃない。

足に巻かれた縄を、

自分の手で外すときが来たのだ。

この子を連れて、あの家を出よう。

それが、私と命の物語の、第一歩になる――そう信じて。

コメント

タイトルとURLをコピーしました